この記事の要点
- 01DXプロジェクトは、何をどう変えるかを決める「設計」と、決めた仕組みを作って現場で使えるようにする「実行」の2段階で進みます。
- 02設計では、現状と目指す姿の差から課題を見つけ、解決策・機能・技術・データと業務フローの順に決めていきます。
- 03現状は、日次・週次・月次・例外の業務に分けて5W1Hで聞くと、漏れなく把握できます。
- 04解決策は、インパクト・工数・予算・期間の4つで比べて優先順位をつけ、時期ごとの計画表(ロードマップ)にします。
- 05実行では、開発・導入テスト・移行・保守運用の順に進め、移行は一度に切り替えず段階的に行います。
目次
「DXを進めたいが、何から手をつければいいかわからない」。そう感じている方に向けて、この記事ではDXプロジェクトの流れを最初から最後まで整理します。
結論から言うと、DXプロジェクトは「設計」と「実行」の2段階で進みます。設計では、今の業務(現状)と目指す姿を比べ、その差をどう埋めるかを決めます。実行では、決めた仕組みを作り、現場で使える状態にします。ツールやシステムを選ぶのは、設計の後半です。

DXプロジェクトは、どんな順番で進むのか
DXプロジェクトは、主に次の11の工程で進みます。1〜7が「設計」、8〜11が「実行」です。
| 段階 | 工程 | この工程で答える問い |
|---|---|---|
| 設計 | 1. 現状の把握 | 今、誰が・いつ・何をしているか |
| 設計 | 2. 目指す姿の設定 | 何のために、どんな状態に変えたいか |
| 設計 | 3. 課題の特定 | 現状と目指す姿の差は、何が原因で生まれているか |
| 設計 | 4. 解決策と優先順位の決定 | 何で解決し、どの順番で取り組むか |
| 設計 | 5. 機能の選定 | 解決策を、どんな機能で実現するか |
| 設計 | 6. 技術の選定 | その機能を、どんな作り方で実現するか |
| 設計 | 7. データと業務フローの設計 | どんなデータを、誰が、どの順番で扱うか |
| 実行 | 8. 開発 | 設計どおりに作れているか |
| 実行 | 9. 導入テスト | 実際の業務で問題なく使えるか |
| 実行 | 10. 移行 | 今の仕組みから、どう切り替えるか |
| 実行 | 11. 保守運用 | 誰が、どう使い続け、直していくか |
1〜7は、ITコンサルタントがシステムを作る前に行う仕事です。システム開発の世界では「要件定義」と呼ばれる工程にあたります。
以下、工程の順に説明します。
1. 現状は、どう把握すればよいのか
現状は、日次・週次・月次・例外業務の4つに分け、それぞれを5W1H(誰が・いつ・どこで・何を・なぜ・どのように)で聞くと、漏れなく把握できます。例外業務は、誰がどう対応しているかまで聞きます。例外の対応ほど、特定の人にしかできない状態(属人化)になりやすいからです。
毎日の業務は、何時に何をしているかという時間帯の単位で聞くと、具体的な答えが返ってきます。また、質問には「DX」のような言葉を使わず、現場の言葉を使います。棚卸しの進め方と聞き方は「業務の棚卸しとは?業務改善を始める前にやる5つの手順」で詳しく解説しています。
現状を聞くと、多くの会社で「手作業が多い」「情報があちこちに分かれている」「特定の人しか分からない業務がある」といった悩みが出てきます。これらは、3の課題の特定で使う材料になります。
2. 目指す姿は、どう決めればよいのか
目指す姿は、「なぜ変えるのか(目的)」と「変えた後にどうなっていたいか(到達点)」の2つで決めます。
目的の例は、次のとおりです。
- 社内の連絡や確認にかかる手間を減らす
- 同じ内容を何度も入力する作業を減らす
- 報告書づくりを自動にする
到達点の例は、次のとおりです。
- 情報が1か所にまとまり、必要な人がいつでも見られる
- 一度入力したデータが、ほかの仕組みにも自動で反映される
- 必要な数字がすぐにそろい、判断が早くなる
- 会社の外からでも仕事ができる
あわせて、使える予算と期間も確認します。予算と期間によって、選べる解決策や作り方が変わるためです。
3. 課題は、どう特定すればよいのか
課題とは、現状と目指す姿の差を生んでいる原因です。多くの会社で見つかる課題は、次の5つです。
| 課題 | 具体的な状態 |
|---|---|
| 情報の分断 | 同じ顧客や案件の情報が、ファイルや担当者ごとに分かれている |
| 二重入力 | 同じ内容を、複数の表やシステムに入力している |
| 手作業での集計 | 数字を手で拾い集めて、表にまとめている |
| 連絡の往復 | 確認や承認のために、何度もやり取りが発生している |
| 属人化 | 特定の人しか、手順や判断の基準を知らない |
※ 例です。
4. 解決策と優先順位は、どう決めればよいのか
まず、課題ごとに解決策を決めます。
| 課題 | 解決策 |
|---|---|
| 情報の分断 | データの一元化 |
| 二重入力 | 自動連携 |
| 手作業での集計 | データの一元化と自動連携 |
| 連絡の往復 | 通知・承認の自動化 |
| 属人化 | 業務フローの標準化 |
次に、解決策に優先順位をつけます。比べる物差しは、次の4つです。
| 物差し | 確かめること |
|---|---|
| インパクト | 解決すると、どれだけ時間やミスが減るか |
| 工数 | 社内と外部で、どれだけの手間がかかるか |
| 予算 | どれだけ費用がかかり、予算内に収まるか |
| 期間 | 効果が出るまでに、どれだけ時間がかかるか |

優先順位が決まったら、「いつ・何を・どこまでやるか」を時期ごとに並べた計画表を作ります。これをロードマップと呼びます。
すべてを一度に変えようとすると、現場の負担が大きくなり、途中で止まりやすくなります。まずは「効果が大きく、手間が小さいもの」から始めます。効果を確かめてから、次の改善に進みます。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 1か月目 | 情報の置き場所を1か所にまとめる |
| 2〜3か月目 | 同じ内容を2回入力している作業をなくす |
| 4か月目以降 | 承認や報告を自動で回せるようにする |
※ 進め方の例です。
5. 機能は、どう決めればよいのか
機能とは、解決策を実現するために必要な画面や仕組みです。機能は、4で決めた解決策ごとに決めます。
| 解決策 | 機能の例 |
|---|---|
| データの一元化 | 必要な数字や進み具合を1つの画面で見られるダッシュボード |
| 通知・承認の自動化 | 申請が今どの段階にあるかが分かる、ステータスの管理画面 |
| 業務フローの標準化 | 決まった順番で入力できる入力画面 |
機能は「あると便利かどうか」ではなく、「解決策に必要かどうか」で選びます。機能が増えるほど、費用も、使い方を覚える手間も増えるからです。
6. 技術は、どう選べばよいのか
技術の選定では、5で決めた機能を、どんな作り方で実現するかを決めます。比べるのは、かかる費用、使える予算、かけられる期間の3つです。
作り方は、主に次の5つです。
| 作り方 | どんなものか | 向いている場合 | 気をつけること |
|---|---|---|---|
| 既製のサービスを使う(SaaS) | 月額料金で使えるクラウドのサービス。会計ソフトや勤怠管理など | どの会社でもやり方が似ている業務 | 自社のやり方を、サービスに合わせる必要がある |
| 既製のソフトを導入する(パッケージ) | 業種や業務向けに作られた市販のソフト | 業界で決まったやり方がある業務 | 自社に合わない部分の手直しに、費用がかかることがある |
| ノーコードツールで作る | プログラムを書かずに、画面の操作で業務アプリを作れる道具。kintoneなど | 自社用の管理表やアプリを、小さく早く作りたい | 機能が増えると、どこを直せばよいか分かりにくくなる |
| 今のツール同士をつなぐ(API連携) | 使っているサービスの間で、データを自動でやり取りさせる | 同じ内容を2か所に入力している | つなぎ先のサービスの仕様変更や終了で、止まることがある |
| 一から開発する(スクラッチ開発) | 自社専用のシステムを、プログラムで作る | 業務が独自で既製のものが合わず、長く使い続ける | 費用と期間がかかる。作った後の保守も必要になる |
作り方は1つに絞る必要はありません。たとえば、既製のサービスを中心に使い、足りないところをAPI連携でつなぐ組み合わせもよく使われます。
7. データと業務フローは、どう設計すればよいのか
設計の最後に、新しい仕組みで扱うデータと、業務の流れを決めます。
- データ:どんな項目を持つか、誰がいつ入力するか、どの項目でほかのデータとつなぐかを決めます。
- 業務フロー:新しい仕組みを使った後の業務を、誰が・いつ・何をするかの順に並べ、理想の業務フロー図にします。
請求書や納品書など、出力する書類がある場合は、書類の様式を先に決めます。そこから必要なデータを逆算すると、項目の漏れを防げます。
ここで決めたデータと業務フローが、8の開発で作るものの設計図になります。
8〜11. 設計が終わったら、どう作り、どう現場に根づかせるのか
設計が終わったら、開発・導入テスト・移行・保守運用の順に進めます。
8. 開発
設計をもとに仕組みを作ります。一度に完成させようとせず、作る・試す・直すを短い周期で繰り返します。途中の段階で現場の人に見てもらうと、完成後の手戻りを減らせます。
9. 導入テスト
実際の業務に近い使い方で、現場の人に試してもらいます。7で決めた業務フローどおりに仕事が回るかを確かめ、問題があれば本番の前に直します。
10. 移行
今の仕組みから新しい仕組みへ、データと業務を移します。一度にすべてを切り替えず、段階的に移すのが基本です。

11. 保守運用
使い始めた後も、仕組みを使い続けられる状態を保ちます。そのために、2種類の文書を残します。
- 仕様書:仕組みの中身や設定を記録したもの。直すときや、担当者が変わっても理解できる内容にします。
- 業務マニュアル:日々の使い方を記録したもの。担当者が変わっても、同じように使えるようにします。
あわせて、困ったときに誰に連絡するか、改善の要望をどう集めるかも決めておきます。
まとめ
- DXプロジェクトは、「設計」と「実行」の2段階、11の工程で進みます。
- 設計では、現状と目指す姿の差から課題を見つけ、解決策・機能・技術・データと業務フローの順に決めます。
- 解決策は、インパクト・工数・予算・期間の4つで比べ、ロードマップにします。
- 機能は解決策から、技術は機能と費用・予算・期間から決めます。
- 実行では、開発・導入テスト・移行・保守運用の順に進め、移行は段階的に行います。
今後、それぞれの工程について、ヒアリングの仕方、業務の棚卸し、課題の選び方、解決策と評価基準、機能の選定、技術の選定、開発の進め方を、個別の記事で詳しく解説していきます。
よくある質問
DXプロジェクトは何から始めればよいですか?
まず現状の業務を把握することから始めます。日次・週次・月次・例外業務に分け、誰がいつ何をしているかを5W1Hで洗い出すと、課題が見えやすくなります。
ツールやシステムはいつ決めればよいですか?
課題と解決策、必要な機能が決まった後です。技術から先に決めると、課題に合わない仕組みになりやすいためです。
課題がたくさん出てきたら、どれから手をつけますか?
インパクト・工数・予算・期間の4つで比べて優先順位をつけます。効果が大きく手間の小さいものから始め、ロードマップに並べます。
社内にIT担当者がいなくても進められますか?
設計の前半、つまり現状の把握と目指す姿の設定は、業務をよく知る社内の人が中心になるほどうまくいきます。技術の選定や開発は、外部の専門家に相談しながら進める方法もあります。
参考資料
2001年生まれ、21歳で起業、明治大学大学院修了(MBA)。税理士試験官報合格。Flutter/Python歴5年、kintone有資格者。バックオフィス・税理士事務所のDXに強み。業務整理・設計からシステム開発、現場導入まで、中小企業のDXを一気通貫で支援している。




