この記事の要点
- 01社内DXの最初の一歩は、ツール選びではなく、社員が今どう仕事をしているかという事実を聞き取ることです。
- 02「〜って大変だよね?」という聞き方では、事実ではなく同意が返ってきます。社長や上司が聞く場合は、特にその傾向が強くなります。
- 03「昨日の1日」や「直近の1回」のように、特定の日や出来事に固定して聞くと、本当の手間や社員自身の工夫が見えてきます。
- 04質問は、①今の仕事の流れ、②直近の具体的な1回、③困ったことと自分なりの工夫、④こちらの考え、の順番で進めます。
目次
社内で業務改善やDXを進めようとするとき、最初にやるのが社員への聞き取りです。 ところが、聞き方を間違えると、時間をかけても「本当の手間」が見えてきません。特に社長や上司が聞く場合は、社員がつい話を合わせてしまいます。 この記事では、私自身がヒアリングで失敗した経験をもとに、DXを進めるうえで必要な事実を引き出す、質問の順番を紹介します。結論は、「〇〇って大変だよね?」と聞く代わりに、「昨日の1日」を聞くことです。
社内DXは、なぜ社員への聞き取りから始めるのか
DXの最初の一歩は、ツールを選ぶことではなく、社員が今どう仕事をしているかという事実を知ることだからです。
「どんなシステムがあったら楽になる?」と聞けば、何かしら答えてくれます。しかし、その答えが今の業務のどこから出てきたのかが分からなければ、何を変えればよいかは決められません。必要なのは、5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)を使って、事実を洗い出すことです。それが分かって初めて、どの業務をどの手段で変えるかを判断できます。
私自身が、聞き取りで失敗したこと
私は、ある商社の社長から、DXプロジェクトを進めたいとの依頼を受けました。 その社長の話を聞いて方向性を固めてから、現場で働く方々に話を聞いて回りました。振り返ると、そこで2つの失敗をしていました。
1つ目は、仮説を確かめるための質問をしていたことです。社長との打ち合わせの内容を前提にしすぎて、頭の中にはほぼ完成した仮説がありました。そのため、現場の方へのヒアリングでは、「受注の入力が二重になっていて大変ですよね」という聞き方をしていました。相手の方は、たいてい「そうなんです」と答えてくれます。私はそれを手応えだと思っていました。しかし今思えば、得られていたのは事実ではなく、私の質問に対する同意でした。
2つ目は、一般論を聞いていたことです。「みなさん、普段はどうされていますか」と聞くと、相手は頭の中で多くの人の話を平均して答えてくれます。その時点で、実際の行動や言葉の多くは、すでに抜け落ちていました。
この反省から、私は聞き方を変えました。まず相手の今の仕事の流れを聞く。そして、「直近の1人」や「最後に起きた1回」を思い浮かべてもらい、その話として語ってもらう。このように変えてから、私の仮説にはなかった行動や、現場の人が自分で編み出している工夫の話が出てくるようになりました。
外から来た私が聞いても、こうなりました。しかも私は、社長の考えを前提にして聞いていました。社長や上司が自分で部下に聞く場合は、なおさら同じことが起きやすいはずです。

社長や上司が聞くと、なぜ答えが偏るのか
聞き手が上の立場にいると、相手はその考えを否定しにくくなるからです。そこに「〜だよね?」という聞き方が重なると、社員は事実よりも、聞き手が期待している答えを返すようになります。
ユーザー調査の専門機関であるNielsen Norman Groupは、答えをほのめかす質問(誘導質問)によって回答が偏ること、そして聞き手が「権威」に見える場面では、相手が異なる意見を言いにくくなることを指摘しています。社内での聞き取りは、まさにこの状況です。
また、起業家向けの書籍『The Mom Test』(Rob Fitzpatrick著)も、話を聞くときの原則として、自分のアイデアではなく相手について話すこと、一般論や未来の予想ではなく過去の具体的な出来事を聞くこと、そして自分は話さず相手の話を聞くことを挙げています。もともとは顧客に話を聞くための本ですが、社員への聞き取りにもそのまま当てはまります。
現場の社員には、何を、どの順番で聞けばよいのか
次の4つの順番で聞きます。社長や担当者の考えを伝えるのは、最後です。
- 今の仕事の流れ:「1日」「1週間」「1か月」単位で繰り返す仕事と、突発的に発生する「例外業務」を、順番に話してもらう。
- 直近の具体的な1回:最後にその作業をした日を思い出してもらい、そのときの行動を時系列で追う。このとき、実際の画面を見ながら聞くのがポイント。
- 困ったことと、自分なりの工夫:そのときに困ったことと、それを避けるために自分でしていることを聞く。
- こちらの考え:最後に、社長や担当者が気になっている点を確かめる。

質問の言い換えの例は、次のとおりです。
| 避けたい聞き方 | 言い換えた聞き方 |
|---|---|
| 請求書の作成、大変だよね? | 先月の請求書は、何から始めて、何で終わった? 何分ぐらいかかった? |
| 〇〇なシステムがあったら使う? | 今、その作業を楽にするために、自分でしている工夫はある? |
| なんか変えてほしいものある? | 時間がかかったり、負担が大きかったりした作業を、1つ教えて |
聞いた内容は、どうまとめればよいのか
聞いた内容は、時刻と作業を並べた表にまとめます。表にすると、作業の受け渡しや待ち時間が目で見て分かるようになります。
| 時刻 | 作業 | 使った道具 | 誰から受け取ったか | 誰に渡したか | 困っていること・工夫 |
|---|---|---|---|---|---|
| 9:00 | メールで届いた請求書を確認する | Gmail | 取引先 | ― | 件名がばらばらで探しにくい |
| 9:30 | 請求書の内容をExcelに転記する | Excel | ― | ― | 手で写している |
| 11:00 | 支払いの承認を依頼する | 紙の申請書 | ― | 社長 | 社長が外出中だと止まる |
※ 表の内容は、まとめ方を説明するための例です。
この表は、そのまま業務の棚卸しの材料になります。社員から聞いた事実が、どの業務から変えるべきかを決める根拠になります。

共感の相槌は、言ってはいけないのか
言ってはいけないわけではありません。むしろ大切です。
社員が「〇〇が大変です」と言ったときは、「そうなんだ、〇〇は大変だったね」と共感して受け止めることで、相手は安心して話を続けられます。
避けたいのは、こちらが先に「〇〇って大変だよね?」と言うことです。違いは、こちらが先に言うか、相手が言ったことを受けて返すかです。仮説を確かめる「大変だよね?」を減らし、共感して受け止める「大変だったね」を増やすことを意識しましょう。
まとめ
社内DXの聞き取りは、聞く順番と聞き方を変えるだけで、得られる情報が大きく変わります。
- 社内DXの最初の一歩は、社員が今どう仕事をしているかという事実を聞き取ることです。
- 社長や上司が聞くと、社員は話を合わせやすくなり、答えが同意に偏ります。
- 一般論ではなく、「昨日の1日」や「直近の1回」に固定して聞くと、本当の手間や社員自身の工夫が見えてきます。
- 質問は、今の流れ、直近の1回、困りごとと工夫、こちらの考えの順番で進めます。
- 仮説を確かめる「〜って大変だよね?」ではなく、共感して受け止める「〜は大変だったね」を増やします。
よくある質問
社長が自分で社員に聞き取りをしてもよいですか。
できますが、社員は社長の考えを否定しにくいため、答えが同意に寄りやすくなります。社長が聞く場合は、「〜だよね」という聞き方を避け、直近の具体的な1回の話を聞くことを意識してください。
聞き取りには、どれくらいの時間をかければよいですか。
1つの業務について、1人あたり30分から1時間ほどが目安です。長く聞くより、直近の1回の話を時系列で丁寧に追う方が、多くの事実が得られます。
社員が自分の業務をうまく説明できない場合は、どうすればよいですか。
説明を求めるより、実際に作業しているところを横で見せてもらうのがおすすめです。画面を見ながら「今、何を見ている?」と聞くと、言葉にしにくい手順も分かります。
2001年生まれ、21歳で起業、明治大学大学院修了(MBA)。税理士試験官報合格。Flutter/Python歴5年、kintone有資格者。バックオフィス・税理士事務所のDXに強み。業務整理・設計からシステム開発、現場導入まで、中小企業のDXを一気通貫で支援している。




