この記事の要点
- 01業務の棚卸しとは、社内の仕事を1つずつ書き出し、誰が・いつ・どのように行っているかを見える形にすることで、DXプロジェクトの最初の工程「現状の把握」にあたります。
- 02棚卸しは、対象を1人の担当者の仕事に絞る、区分ごとに一覧にする、詳しく聞いて表に書く、1つの業務の流れを図にする、担当者と答え合わせをする、の5つの手順で進めます。
- 03表には、5W1Hの6項目に「区分」「所要時間と回数」「困っていること」を加えた9つの項目を、1行1作業で書きます。
- 04例外の作業も一覧から外さず1行ずつ書き、最初の一周では「誰が、どう対応しているか」までを押さえます。
- 05課題の特定や優先順位の決定は、棚卸しが終わってから行う次の工程です。
目次
「業務改善を進めたいが、何から手をつければよいか分からない」。そう感じたときに最初にやることは、ツール選びではありません。今の仕事をありのまま書き出す「業務の棚卸し」です。
この記事では、棚卸しの意味と、5つの手順、表に書く9つの項目を紹介します。DXプロジェクト全体の流れは「DXプロジェクトの進め方|現状把握から保守運用までの全体像」で解説しています。棚卸しは、その最初の工程「現状の把握」にあたります。課題を見つけたり、優先順位を決めたりするのは、棚卸しが終わった後の工程です。
業務の棚卸しとは何か
業務の棚卸しとは、社内の仕事を1つずつ書き出し、誰が・いつ・どのように行っているかを見える形にすることです。商品の在庫を1つずつ数えるように、仕事を1つずつ書き出していきます。
書き出すのは、仕事の名前だけではありません。担当者、タイミング、使う道具、かかる時間まで書いて、はじめて次の工程で使える材料になります。棚卸しが終わると、手元には「業務の一覧表」と「業務フロー図」の2つが残ります。

なぜ、ツール選びより先に棚卸しをするのか
今の業務が分からないまま道具を選ぶと、道具と業務がかみ合わないからです。kintone や Google Workspace のような便利な道具も、どの業務のどの手間を減らすのかが決まっていなければ、使われなくなります。
よくあるのは、次のような流れです。
- 「紙とExcelをやめたい」と考え、評判のよいツールを契約する
- 導入したものの、なかなか効果が実感できない
- 結局、元のExcelに戻る
この失敗の原因は、ツールではありません。どの業務の、どの手間を減らしたいのかが決まっていなかったことです。棚卸しは、課題を見つける前に、今の業務をありのまま知るための作業です。
社長にとっては、もう1つ意味があります。棚卸しをすると、「この人がいないと止まる仕事」がどこにあるかが見えてきます。担当者が休んだり辞めたりしたときに困る業務を、前もって知ることができます。
業務の棚卸しは、どんな手順で進めるのか
次の5つの手順で進めます。最初から完璧を目指さず、1人の担当者の仕事で一周することを目標にします。
- 対象を1人の担当者の仕事に絞る:たとえば「経理を担当する社員の仕事」です。最初から全社を対象にすると、量が多すぎて途中で止まってしまいます。
- 仕事を区分ごとに一覧にする:その人の仕事を、日次・週次・月次・例外の4つの区分に分けて、作業の名前だけを書き出します。例外の作業も、ここで1行ずつ書いておきます。
- 1つずつ詳しく聞き、表に書く:一覧の作業ごとに、5W1H(誰が・いつ・どこで・何を・なぜ・どのように)と、かかる時間と回数、困っていることを聞いて表に書きます。例外の作業は、「誰が、どう対応しているか」まで書けば十分です。
- 1つの業務の流れを図にする:一覧の中から、手間がかかっていそうな業務を1つ選びます(例:請求書の発行)。その業務の作業を、始まりから終わりまで矢印でつなぎ、誰の手から誰の手に渡るか、どこで待ちが生まれているかが分かるようにします。
- 担当者と答え合わせをする:できあがった表と図を担当者に見せ、抜けている作業や、実際と違うところがないかを確かめます。可能であれば、実際の作業を横で見せてもらいます。話を聞くだけでは、本人が当たり前だと思っている作業や、同僚に聞かれて答えるような、表に残りにくい仕事が抜けることがあるからです。
例外の作業は、一覧から外さないでください。例外の対応ほど、特定の人しかできない状態(属人化)になりやすいからです。ただし、手順3と4では、通常の流れを先に詳しく追います。業務を追っていくと、例外や条件による分かれ道がいくつも出てきます。分かれ道の細部に最初からこだわると、全体像がぼやけてしまいます。

棚卸しの表には、何を書けばよいのか
表には、次の9つの項目を書きます。5W1Hの6項目に、「区分」「所要時間と回数」「困っていること」の3つを加えたものです。スプレッドシートに、1行1作業で書いていきます。
| 項目 | 5W1H | 書く内容 | 記入例 |
|---|---|---|---|
| 作業名 | 何を | 動詞で終わる短い名前 | 売上を集計する |
| 区分 | ― | 日次・週次・月次・例外のどれか | 月次 |
| タイミング | いつ | いつ発生するか | 毎月末 |
| 担当者 | 誰が | 実際にやっている人 | 経理担当 |
| 道具・場所 | どこで | 使うファイルやソフト、作業する場所 | Excel |
| 進め方 | どのように | 何を受け取り、どう処理し、誰に渡すか | 営業の売上報告を受け取り、Excelで取引先ごとに集計する |
| 目的 | なぜ | その作業がないと何が困るか | 請求書の金額を確定するため |
| 所要時間と回数 | ― | 1回あたりの時間と、月あたりの回数 | 約3時間、月1回 |
| 困っていること | ― | 担当者の言葉をそのまま | 売上報告の数字を手で写している |
※ 記入例は説明のための例です。
所要時間は、正確でなくてかまいません。「だいたい」で書き、1回の時間に月の回数を掛けると、その作業に毎月どれだけの時間を使っているかが分かります。1回は短くても、毎日発生する作業は、月にすると大きな時間になります。
「困っていること」には、担当者の言葉をそのまま書きます。この段階では、原因を考えたり、解決策を書いたりはしません。原因を探すのは、次の工程「課題の特定」の仕事です。

現場の人には、どう聞けばよいのか
現場の人には、抽象的な質問ではなく、具体的な時間と作業を聞きます。「普段は何をしていますか」より、「朝、何時に何から始めますか」と聞く方が、実際の作業が出てきます。
- 現場の言葉で聞く:「DX」のような言葉は使わず、現場で使っている言葉で聞きます。
- 表を渡して埋めてもらわない:「埋めておいてください」と頼むと、空欄が残りがちです。30分ほど時間をもらい、話を聞きながら、聞き手(管理部門の責任者)が書く方が早く、漏れも少なくなります。
- 最初に目的を伝える:棚卸しは、担当者を評価するためではなく、手間を減らせる場所を探すためのものです。担当者自身にとっても、自分の仕事を見直す機会になります。そう伝えてから聞くと、ありのままを話してもらいやすくなります。
- その場で解決策を話さない:「それならこのツールで」と話すと、相手はその案に合わせて答えるようになります。
聞き方のコツは「社内DXの始め方|業務ヒアリングで社員に最初に聞くこと」で詳しく紹介しています。
社長と管理部門の責任者は、それぞれ何をすればよいのか
棚卸しは、社長と管理部門の責任者で役割を分けると進みやすくなります。
| 社長 | 管理部門の責任者 | |
|---|---|---|
| 決めること | 対象にする担当者と、使える時間 | 書き出す細かさと、フロー図にする業務 |
| やること | 担当者が棚卸しに時間を使うことを認める | 担当者から話を聞き、表とフロー図にまとめる |
| 見るところ | 特定の人しかできない作業がどこにあるか | 表に抜けや、実際と違うところがないか |
特に大切なのは、社長が「DXは本業の一部だ」と示すことです。日々の業務の合間に頼むと、後回しになりやすいからです。担当者が毎週決まった時間を使えるようにするだけでも、進み方は変わります。
棚卸しでよくある失敗は何か
一番多い失敗は、範囲を広げすぎて、途中で止まってしまうことです。最初から全社の業務を洗い出そうとすると、量が多すぎて終わりません。
そのほか、次の失敗もよく起こります。
- 担当者を外して進める:管理職だけで書くと、現場の手作業が抜け落ちます。
- 途中で解決策を決め始める:書き出しながら道具の話を始めると、表が「やりたいこと」で埋まり、今の業務が見えなくなります。解決策を考えるのは、課題を特定した後です。
- 一度で終わらせる:業務のやり方は、人の入れ替わりや取引先の変化で少しずつ変わります。年に1回など、見直す時期を決めておきます。
棚卸しが終わったら、次に何をするのか
棚卸しが終わったら、目指す姿を決め、今の業務との差から課題を特定します。棚卸しで作った表は、その材料になります。
- 「困っていること」の列は、課題の候補になります。
- 「所要時間と回数」の列は、どの課題から手をつけるかを決めるときに、効果の大きさを見積もる根拠になります。
1人目の担当者で一周できたら、同じやり方で、ほかの担当者や係に広げていきます。それぞれの工程の進め方は、「DXプロジェクトの進め方」の工程2〜4で解説しています。
まとめ
業務改善は、ツール選びではなく、今の業務を書き出すことから始めます。
- 業務の棚卸しとは、社内の仕事を1つずつ書き出し、誰が・いつ・どのように行っているかを見える形にすることです。DXプロジェクトの最初の工程「現状の把握」にあたります。
- 対象を1人の担当者の仕事に絞る、区分ごとに一覧にする、詳しく聞いて表に書く、1つの業務の流れを図にする、担当者と答え合わせをする、の5つの手順で進めます。
- 表には、5W1Hの6項目に「区分」「所要時間と回数」「困っていること」を加えた9つの項目を、1行1作業で書きます。
- 例外の作業も一覧に残し、最初の一周では「誰が、どう対応しているか」まで書きます。
- 課題の特定や優先順位の決定は、棚卸しが終わってから行います。
まずは、対象にする担当者を1人選び、その人の仕事を日次・週次・月次・例外に分けて書き出してみてください。
よくある質問
業務の棚卸しの表は、どのツールで作ればよいですか。
最初は、Excel や Google スプレッドシートで十分です。1行に1つの作業を書き、作業名・区分・担当者・所要時間と回数などの9つの項目を列に並べます。
社員に表を渡して、書いてもらえばよいですか。
渡すだけだと、答えにくく空欄が残りがちです。30分ほど時間をもらい、話を聞きながら、聞き手(管理部門の責任者)が書く方が早く、漏れも少なくなります。
例外の業務は、どこまで書けばよいですか。
最初の一周では、作業の名前と「誰が、どう対応しているか」までを1行で書きます。条件による分かれ道を細かく追うのは、通常の流れを固めてからにします。
業務の棚卸しと業務フロー図は、何が違いますか。
業務フロー図は、棚卸しの中で作るものの1つです。棚卸しでは、作業を一覧表に書き出したあと、その中の1つの業務を選び、作業を矢印でつないで流れ図にします。
社員が少ない会社でも、棚卸しは必要ですか。
必要です。社員が少ないほど、特定の人しか知らない業務が生まれやすいからです。担当者が休んだときに困る業務を見つけるためにも役立ちます。
参考資料
2001年生まれ、21歳で起業、明治大学大学院修了(MBA)。税理士試験官報合格。Flutter/Python歴5年、kintone有資格者。バックオフィス・税理士事務所のDXに強み。業務整理・設計からシステム開発、現場導入まで、中小企業のDXを一気通貫で支援している。




